最近では、“インナーマッスル”ということばがポピュラーになり、耳にしたことがない人も少なくなってきたのではないでしょうか。とはいうものの、「インナーマッスルっていったい何なの?」と聞かれると答えに困ってしまう人もまだ多いことでしょう。
われわれが一般に筋力トレーニングをして鍛えている大腿四頭筋や大臀筋などは“アウターマッスル”と呼ばれる筋肉です。カラダの表層についている 大きな筋肉で“浅在筋”とも呼ばれます。これらは人間が運動をするとき、つまり手足を動かすときに働く筋肉です。
それに対して“インナーマッスル”は、股関節や肩関節、背骨についている小さな筋肉です。表層ではなく、深層部にあるため、“深在筋”とも呼ばれます。われわれが動くときにアウターマッスルが大きな力を出しますが、そのときにインナーマッスルは関節がはずれてしまわないように固定する働きをしています。つまり、インナーマッスルはカラダを動かすためにというよりも、姿勢が崩れてしまわないように保持・安定化するために働く筋肉なのです。したがって、座りっぱなしや立ちっぱなしなど、じっと動かないときにも、姿勢が崩れてしまわないように常に働いているのです。
こうした働きをしているインナーマッスルは、アウターマッスルに比べて疲労しにくく、持久性に富んでいる筋肉です。それでも同じ姿勢を長く続けたり、同じ動きばかり繰り返したりしていると疲労して硬くなったり、緩みすぎて力が入らなくなったりしてきます。インナーマッスルが硬くなってくると関節が詰まって油の切れた機械のようなにギシギシとした状態になり、アウターマッスルで無理矢理に動かすことになってしまいます。逆に緩みすぎると伸びたゴムのような状態になり、アウターマッスルが大きな力を出そうとしても関節が固定されずにずれてしまうため、うまく力を出せなくなってしまうのです。インナーマッスルがこうした悪い状態にあると、肩や股関節周辺の体幹部に近い筋肉にうまく力が入らず、自分のカラダを思い通りに動かせません。そのためどんなによいイメージを持っていても、イメージどおりの動きをすることができず、結局スポーツ・パフォーマンスを向上させることができないのです。
これまで多くの選手を指導した経験からすると、本当に優秀な選手はインナーマッスルがうまく機能していて驚くほど柔軟性が高く、調整力も高いのですが、こうした選手は本当に一握りに過ぎません。ほとんどの選手がこのインナーマッスルになんらかの問題を抱えており、いくら練習やトレーニングを積んでもうまくならない、強くならない、思い通りの動きができないという状況に陥っているのです。
したがって、何よりもまず最初に取り組まなければならないことは、インナーマッスルを柔らかくしてうまく機能する状態にすることなのです。